Ⅲ 絶望のレクイエム
果てしなく続く荒野に、アリシアは立っていた。
「え……。ここは、どこ? あら? 私はなんでこんなところに?」
どこからか、静かな笛の音(ね)が聞こえてくる。
素朴な旋律はどこか、言いようのない哀しみを運ぶよう。
重なり合うように倒れて動かない、無数の兵。
まるで静止画の様な、生命を感じさせないその荒野に響く、古い横笛の調(しらべ)。
敵対する二つの国の、諸共に伏した兵士達。
彼らを弔うその笛の音が与えるのは、どこまでも沈むように深く、そして静かな絶望だった。
「これは……聖戦……」
約千年前、この地を支配していた二国は“聖戦”と呼ばれる戦を、長きに渡って繰り返していた。
戦が戦を呼び、生まれた憎しみが悲しみとまた憎しみを生む。
その果てにあったもの、それは終焉ではなく——。
大地に雷鳴が轟く。
神の怒りを表すそれの後に、まばゆい閃光が全てを灼き払ったかのように思えた。
『アリシア』
語りかけてきた声は、低くもなく、高くもなく。
『流れた血の代償は、命を以て払われなければならない』
このような惨事が、もう二度と、起こらぬようにとそっと呟くその声もまた、絶望と哀しみに満ちていた。
『儀式は始まった。そなたの姉上を、フローズンティアラを追うのだ。千年の時を越えて、今度はそなたが……』
「生贄、に?」
その声はまるで糾弾されたかのように動揺し、そして絞り出すように言った。
『この世界の、平和の礎となるのだ』
「平和……」
苦渋を耐え忍ぶようなこの声の主は、平和でない世界を知り、だからこそ平和を望むのか。
今アリシアの周りを取り巻く環境は、真の平和なのだろうか。
『儀式は始まった』
そう、これは平和ではなく、かといってそうでないわけでもない。
これは始まり。
始まり、やがて訪れるのは果たして、平和か、それとも——。
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